研究内容
TITLE:セリンプロテアーゼと上皮型Naチャネルを標的とした新規降圧治療薬の開発
糸球体で濾過されたNaは通常99%が尿細管で再吸収され、生体内のNaバランスが維持されています。上皮型Naチャネル(ENaC)は主に集合尿細管に存在し、濾過されたNaの約3%を再吸収することで体内のNaバランスを最終的に調節しており、その遺伝子異常によってLiddle症候群や偽性低アルドステロン症I型等の尿細管疾患を生じます(図1)。
ENaCは昇圧ホルモンの一つであるアルドステロンにより活性化されますが、その際にENaCγサブユニットがセリンプロテアーゼにより切断されることが重要です(図2)。
ENaCγサブユニットは細胞外ドメインがゴルジ体でfurinにより切断され、さらに細胞膜表面で他のセリンプロテアーゼにより切断されることで活性阻害ペプチドが切りだされ、Na再吸収が亢進する。
アルドステロンによりENaCが活性化される際も、このプロセスが重要とされており、セリンプロテアーゼによる切断の結果、γENaCの分子量のシフトを認める。
当教室ではこれまでに、アルドステロン負荷時のセリンプロテアーゼによるγENaCの活性化に対して、合成セリンプロテアーゼ阻害薬(SPI)が抑制作用を有することを報告しました(図3)。
さらに、食塩感受性高血圧のモデルラットであるDahl食塩感受性ラットは食塩負荷により著明な高血圧と腎障害をきたしますが、この際セリンプロテアーゼによるγENaCの活性化が亢進していること、さらにSPIが血圧上昇を抑制し、腎障害を軽減することを報告しています(図4)。
Dahl食塩感受性高血圧ラットではセリンプロテアーゼによるγENaCの活性化が亢進しており、セリンプロテアーゼ阻害薬は高血圧を抑制し、腎障害を軽減した。
糖尿病性腎症、メタボリック症候群などの尿蛋白を呈する病態では糸球体から漏れ出た血液中のセリンプロテアーゼがアルドステロンと独立してENaCを活性化し、高血圧の一因となることが報告されていますが、食塩負荷でさらに尿中セリンプロテアーゼ活性が亢進することを確認しています。(図5)
。 腎不全の進行抑制に血圧のコントロールは極めて重要ですが、複数の降圧薬を併用しても降圧目標を達成するのは難しいのが現状です。腎臓内科学分野では、セリンプロテアーゼとENaCを標的とした新しい降圧治療と腎保護療法の可能性を探求しています。