研修医募集

TITLE:自然炎症に着目した腎疾患進展メカニズムの解明と新規診断・治療法の開発

 内因性リガンドと病原体センサー間の相互作用による慢性炎症(自然炎症)は生活習慣病やガンなど現代病の分子基盤としてその重要性が認知されてきている一方で、腎臓における役割は不明でした。糖尿病性腎症は1998年以降、透析導入原疾患の第一位であり導入患者の約半数を占めるに至っていることから、発症予防・進展阻止のための新しい治療戦略が求められている疾患です。
 我々は糖尿病性腎症の新規治療標的探索を目指して、糖尿病モデルマウス糸球体を用いた病態関連分子の網羅的スクリーニングを行い、自然炎症の一端を担う自然免疫受容体toll-like receptor 4 (TLR4)、およびその内因性リガンドmyeloid-related protein 8 (MRP8)に着目して研究を進めています。これまでの検討により、糖尿病性腎症においてTLR4の遮断が腎糸球体におけるMRP8発現を抑制すると同時に腎症進展を軽減できること、マクロファージにおける糖脂肪毒性によるMRP8発現には様々な機序が関与しうることを明らかにしてきました(図1)。




MRPTLR4シグナルは糖脂肪毒性による全身性の影響に加え、腎組織レニン・アンジオテンシン系活性化を含む様々な病態で誘導される糸球体内細胞間クロストーク、そしてそれによる腎組織局所の影響の両者が、病態進展に重要であると考えられます(図2)。




 しかしながら、自然免疫に重要なTLR4遮断を糖尿病あるいは腎疾患患者に行うことは、重篤な感染合併症のリスクを高めてしまうことが懸念されます。現在我々は臨床応用を念頭に、病態あるいは組織特異的に増加するMRP8 を標的とした治療を目指した検討を、糖尿病性腎症、腎炎、虚血性腎症など種々の腎疾患モデルを用いて検討しています(図3)。



企業・他大学との共同研究による臨床応用を目指した取り組み

上記の基礎的検討に立脚した具体的な臨床応用を目指す取り組みを具現化するために、下記に示す主に4つのプロジェクトを国内企業や京都大学、国立循環器病センターとの共同研究で行っています。


① MRP8を創薬ターゲットとした取り組み

上記図1~3に示すように、これまでの検討からMRP8が腎疾患において新しい治療ターゲットとなることが期待されます。国内企業と共同でMRP8を対象とした創薬研究を進めています。日本から、そして熊本から新しい創薬に繋がる研究を目指したプロジェクトです。



② 新規尿中病的分子MRP8測定技術法の開発

MRP8モノマーが腎疾患を有する患者の尿中で特異的に検出され、従来のアルブミン尿に代表される腎障害マーカーとは異なる病態を反映できるマーカーになる可能性があることを発見、知財化(特願2014-261973)を行いました。また尿中での存在様式が極めて不安定なため、最新のプロテオーム技術を駆使することにより(図4)、臨床に即した保存方法で迅速な測定を可能にする診断技術の開発を目指して、島津テクノリサーチ社および京都大学との共同研究を進めています(AMED研究助成)。




③ 骨腎連関に着目した新規骨由来分泌因子の検討

心腎連関に代表される臓器連関はここ十数年で臨床的に非常に重要な概念として確立してきました。そしてその臨床的に重要な現象を分子レベルで捉え、新しい診断・治療に繋げる研究も進歩しています。その中でCKD-MBDに代表される骨腎連関はかなり古くから知られている現象ですが、リン代謝異常と老化の密接な関係性が明らかになるにつれて最近再び注目されている領域です。国立循環器病センターの望月部長らが発見した骨由来新規分泌因子骨腎連関に果たす役割について、共同で検討を進めています(CREST研究→AMED研究助成)。



④ 細胞内エネルギー代謝、小胞体ストレスに着目した新規腎疾患治療薬の検討

京都大学で開発された細胞保護効果を有する新規コンパウンドは比較的大量にATPを消費し、ERストレスにも感受性が高い腎臓にも有効な可能性があると考えられます。新規薬剤が強く望まれる腎臓領域に新たな治療法を提案することを目的としてプロジェクトです。



熊本大学大学院生命科学研究部 腎臓内科学分野
熊本大学医学部附属病院 腎臓内科 〒860-8556 熊本県熊本市中央区本荘1丁目1-1  TEL.096-373-5164

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